五十肩の患者さんからよく聞かれる質問が「ロキソニンは効きますか?」というものです。
確かに効果はありますが、「万能薬」では決してありません。
本記事では、医学的観点からロキソニンの効果と限界、そして本当に必要な治療について解説します。
五十肩の痛みとロキソニンの作用機序
五十肩(肩関節周囲炎)は、関節包や腱板の炎症によって突然の痛みや可動域制限が生じる疾患です。
「洗濯物を干そうとしたら急に痛くなった」という訴えが典型的。
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)は、炎症を引き起こすプロスタグランジンの生成を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。
初期の炎症性疼痛には一定の効果がありますが、製薬会社のデータによれば、肩の痛みへの有効率は約57.4%とされています 1)。
ロキソニンを使う際の重要な注意点
NSAIDsの長期使用による消化器系合併症は軽視できません。特に以下の方は注意が必要です。
- 胃・十二指腸潰瘍の既往がある方
- 高齢者(特に75歳以上)
- 複数の薬を服用している方
- 抗血小板薬やステロイド剤を併用している方
これらに該当する方は胃粘膜保護薬の併用が推奨されます。
また「食後に服用する」「水をたっぷり飲む」といった基本的な注意点も忘れずに。
ロキソニンだけでは不十分なケース
臨床現場では、以下のようなケースでロキソニン単独治療の限界が指摘されています。
- 夜間痛が強い場合:睡眠が著しく妨げられる場合は、より強力な介入が必要です
- 拘縮期に入っている場合:痛みより動きの制限が主訴の場合、薬物療法だけでは改善しません
- 糖尿病など基礎疾患がある方:治りが遅い傾向があり、複合的アプローチが必要です
- 長期化している場合:組織の癒着や二次的な筋緊張には多角的治療が不可欠です
ペインクリニックでの専門的アプローチ
ペインクリニックでは、薬物療法に頼らない総合的治療を提供しています。
注射療法:超音波エコーガイド下で正確に薬剤を注入することで、劇的に症状改善するケースも少なくありません。
ステロイド注射、ヒアルロン酸注射、神経ブロック注射などが症状に応じて選択されます。
徒手療法:肩甲骨周囲の筋に対するマッサージや関節モビライゼーションなどで、肩の動きを改善します。研究においても、適切な徒手療法が疼痛、可動域、機能の改善をすると報告されています 2)。
段階的運動療法:「痛みがあるから動かさない」という悪循環を断ち切るため、段階に応じた適切な運動プログラムが重要です。
疼痛期には「振り子運動」などの低負荷から始め、徐々に「タオルストレッチ」「自動介助運動」へと進めていく場合もあります。
日常生活でできる対策
薬の賢い使い方:ロキソニンは「乗り切るための一時的な杖」と考え、特に痛みの強い時間帯の前(多くは就寝前)に計画的に服用するのが効果的です。
温熱・寒冷療法:急性期は冷やす、慢性期は温めるのが基本ですが、実際には「どちらが心地よいか」で選ぶのがベストです。多くの場合、入浴で温めると症状が緩和します。
枕の高さ調整:高すぎる枕は肩に負担をかけます。横向きで寝る場合は、肩が圧迫されない適切な高さの枕を選びましょう。
早期受診の重要性:「様子を見よう」と放置せず、痛みが2週間以上続く場合や日常生活に支障がある場合は、早めに専門医を受診してください。早期治療で回復期間が大幅に短縮されることが報告されています。
五十肩はほとんどが良くなる疾患ですが、適切な治療とセルフケアで回復期間に大きな差が生じます。
ロキソニンは有用な治療選択肢の一つですが、過信は禁物。
総合的な治療アプローチで、早期の痛み軽減と機能回復を目指しましょう。
※本記事の内容は医学的知見に基づいていますが、個々の症状や体質によって最適な治療法は異なります。診察時にご相談ください。
1)KEGG MEDICUS: JAPIC医療用医薬品集「ロキソニン錠60mg(一般名:ロキソプロフェンナトリウム水和物)添付文書」
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057032
2)Chan HBY, Pua PY, How CH. (2017). Manual therapy as an effective treatment for adhesive capsulitis of the shoulder: A systematic review and meta-analysis. Singapore Medical Journal, 58(11), 677–685.