慢性腰痛は、発症から3か月以上続く病態で、日常生活や職務遂行、さらには心の健康にも大きな影響を及ぼします。このような痛みは、患者の生活の質(QOL)を大幅に低下させる可能性があります。
慢性腰痛の原因
かつては「年齢のせい」「治らない」とされていた腰痛も、数多くの研究や最新の医療技術と知識により、その原因を特定し、効果的な治療を行うことが可能になりました。
我々ペインクリニックの専門医は、そのような痛みを緩和し、患者のQOL(生活の質)の向上を目指しています。
痛みに耐え続ける時代は終わり、今は痛みを自分でコントロールし、生活の質を向上させることが可能です。我々は、患者さま一人ひとりの状態を理解し、最適な治療法を提供することで、その実現をサポートします。
慢性腰痛の原因は多岐にわたりますが、それらは大きく5つのカテゴリーに分けられます。
一次性慢性疼痛、がん性慢性疼痛、術後痛および外傷後慢性疼痛、慢性神経障害性疼痛、および慢性筋骨格系疼痛です。それぞれのカテゴリーは特定の病態や状況を示しているため、特徴を把握さえすれば、診断は可能であることが多いです。
一次性慢性疼痛
一次性慢性疼痛は、特定の病態や外傷が明確な原因となっていない疼痛です。一次性慢性疼痛には、広汎性一次性慢性疼痛(線維筋痛症など)や局在性一次性慢性疼痛(非特異的腰痛など)があります。これらは複雑な神経メカニズムによって引き起こされます。
がん性慢性疼痛
がんそのものやその治療に関連する疼痛を指します。がん細胞が脊椎に転移したり、抗がん剤による神経障害、手術や放射線治療による疼痛などが含まれます。これらの疼痛は病状や治療の進行に応じて変化することがあります。
術後痛および外傷後慢性疼痛
手術後に持続する疼痛(例えば、Failed Back Surgery Syndrome (FBSS))や、外傷後に長期間続く疼痛(例えば、交通事故によるむち打ちなど)がこのカテゴリに含まれます。これらの疼痛は適切なリハビリテーションや痛み管理が必要となる場合があります。
慢性神経障害性疼痛
神経が損傷した結果として発生する疼痛です。末梢神経障害性疼痛(椎間関節性腰痛など)や中枢神経障害性疼痛(脊柱管狭窄症、ヘルニアなど)が含まれます。神経痛は他の疼痛とは異なり、鈍痛や焼けつくような痛み、電気が走るような痛みといった特徴的な痛みを伴うことがあります。
慢性筋骨格系疼痛
筋肉、骨、関節、腱などの損傷や疾患が原因となる疼痛です。例えば、長期にわたる炎症や骨や関節の構造的な変化(変形性脊椎症など)による慢性疼痛、筋肉の過度な緊張や弱化(筋筋膜性腰痛症など)による非特異性慢性疼痛が含まれます。これらの疼痛は日常生活の動きや姿勢、ストレスなどによって増減することがあります。
慢性腰痛の治療
慢性腰痛の治療には主に3つの方法があります。それは、薬物療法、リハビリテーション、そしてブロック療法です。これらの治療法は一部の患者に対して単独で用いられることもありますが、しばしばこれらを組み合わせた多角的なアプローチが効果的であることが証明されています。
薬物療法
薬物療法では、痛みの種類と程度により、適切な薬物が選択されます。消炎鎮痛剤、オピオイド、抗うつ薬、抗てんかん薬など、それぞれの薬物は特定の疼痛メカニズムに対して作用し、痛みを管理するのに役立ちます。ただし、薬物療法は痛みを緩和する手段であり、根本的な問題を解決するものではありません。そのため、可能な限り原因対策を行うことが重要です。
リハビリテーション
リハビリテーションでは、筋力トレーニングやストレッチなどを通じて体幹部の筋肉を強化し、筋緊張を和らげることを目指します。これにより、体のバランスを整え、再発防止に役立つとともに、痛みを緩和する効果があります。また、筋肉の柔軟性を高め、筋肉量を増加させることで痛みを緩和することができます。
ブロック療法
特定の原因が見つからない腰痛、あるいは筋肉や筋膜(筋肉を覆っている薄い膜)に起因する腰痛を経験しているなら、トリガーポイント注射という治療法が助けになるかもしれません。
トリガーポイントとは、筋肉の中に存在する固くなった部分のことを指します。これらの部分はしばしば押すと痛むもので、痛みを感じている箇所と一致することがあります。
治療では、医師が患者様の痛みの箇所を触診し、固くなった筋肉に注射をします。この注射は、筋肉と筋膜の間に細い針を挿入し、特別な薬を注入することで、痛みを和らげる効果があります。
一方、もし腰痛が神経の問題から来ていると考えられる場合(例えば、脊柱の関節が原因の腰痛、脊柱管が狭くなる病気、ヘルニアなど)、硬膜外ブロックという治療法が選択されることがあります。
この治療では、圧迫されて過敏に反応している神経に対して、特別な麻酔薬を使ってその活動を抑えます。また、痛みを引き起こす物質を洗い流す効果もあり、新たな痛みの発生を防ぎます。ただし、硬膜外ブロックは神経の問題自体を治すものではなく、痛みを和らげる助けとなる治療法です。」
当院での取り組み
当院では、最新の医療知識と技術を駆使し、患者さま一人ひとりの痛みの原因を特定し、その痛みに最も効果的な治療法を選択します。それは、非侵襲的な方法から手術(当院ではできませんので、紹介いたします)まで、最適な選択肢を提供することを意味します。
また、医療者と患者さまとのコミュニケーションは、慢性腰痛の治療において非常に重要です。患者さまがご自身の体の状態を理解し、痛みと上手に付き合う方法を学ぶことで、日常生活における自己管理能力が向上します。これからも、可能な限り、患者さま一人ひとりに寄り添った医療を提供していきます。
まとめ
慢性腰痛は、その痛みが3か月以上続くという特性上、患者さまの生活全体に影響を及ぼす可能性があります。ですから、我々医療者は、痛みを緩和するだけでなく、患者の生活の質(QOL)の向上を目指すことが重要となります。それは、痛みを自分でコントロールし、日常生活を自由に楽しむことができるようにすることを意味します。
痛みという壁を乗り越え、より健康で充実した生活を送るための一歩を、一緒に踏み出したいと思っております。何かお困り事があるようでしたら、診察時にお気軽にご相談ください。