- デスクワーク中、ふと気づくと肩に鈍い痛みを感じる。
- 会議中に肩を回したくなる。
- パソコン作業が長引くと、肩から首にかけて重だるさが広がる—。
このような症状に心当たりはありませんか?
長時間のデスクワーク、ストレス、運動不足など、私たちの生活環境は肩にとって決して優しいものではありません。
しかし、仕事中の肩の痛みは、その原因を正しく理解し、適切な対処を行うことで多くの場合改善可能です。
この記事では、仕事中に発生する肩の痛みについて、その原因から具体的な対処法まで、ペインクリニックの医師の視点から詳しく解説します。
なぜ肩が痛くなるのか、どのような時に医療機関を受診すべきか、そして日常生活で実践できる予防法まで、わかりやすくお伝えしていきます。
なぜ仕事中に肩が痛くなるのか?医学的メカニズムを解説
1. 姿勢の問題がもたらす負の連鎖
パソコン作業時、私たちの体には想像以上の負担がかかっています。
頭部の重さは約5〜6キログラム。
これは、ボウリングボール1個分に相当します。
前傾姿勢でモニターを見つめるとき、この重さを支えるために肩や首の筋肉は常に緊張状態を強いられます。
特に問題となるのが「頭部前方位姿勢」。モニターに顔を近づける姿勢が続くと、首の自然なカーブが失われ、肩甲骨周りの筋肉に過度な負担がかかります。
この状態が慢性化すると、筋肉の血流が悪化し、疲労物質が蓄積。やがて痛みとして現れるのです。
2. ストレスが引き起こす筋肉の緊張
仕事のプレッシャーや人間関係のストレスは、無意識のうちに肩に力を入れさせます。
これは「防御反応」と呼ばれる本能的な反応で、ストレスを感じると肩をすくめるような姿勢を取りがちになります。
この状態が続くと、僧帽筋上部線維や肩甲挙筋といった筋肉が過緊張状態となり、血行不良から痛みへとつながっていきます。
3. 運動不足による筋力低下と柔軟性の喪失
デスクワーク中心の生活では、肩周りの筋肉を動かす機会が極端に減少します。
筋肉は使わなければ衰え、柔軟性も失われていきます。
弱った筋肉は、日常的な負荷にも耐えられなくなり、痛みを引き起こしやすくなるのです。
肩の痛みを放置すると起こる深刻な問題
「ただの肩こりだから」と軽視していませんか?
実は、肩の痛みを放置することで、以下のような深刻な問題に発展する可能性があります。
頚椎椎間板ヘルニアへの進行リスク
慢性的な肩の痛みは、頚椎への負担を増大させます。
椎間板への圧力が高まり続けると、やがて頚椎椎間板ヘルニアを発症するリスクが高まります。
頭痛や手のしびれといった二次症状
肩の筋肉の緊張は、血管や神経を圧迫するリスクを上げます。
その結果、緊張型頭痛や、腕から手にかけてのしびれといった症状(胸郭出口症候群)が現れることがあります。
仕事効率の低下と生活の質の悪化
痛みによる集中力の低下は、仕事のパフォーマンスに直結します。
また、趣味や運動を楽しめなくなるなど、生活全体の質が低下していきます。
今すぐできる!オフィスでの応急処置法
1. 肩甲骨ストレッチ
- 椅子に座ったまま、両手を頭の後ろで組みます
- ゆっくりと胸を開くように肘を後ろに引き、肩甲骨を寄せます
- この状態を5秒キープし、ゆっくりと元に戻します
これを3回繰り返しましょう。
2. 首の側屈運動
- 右手で左側頭部を軽く押さえ、ゆっくりと右に首を傾けます
- 左肩から首にかけての筋肉が心地よく伸びるのを感じたら、20秒キープ
- 反対側も同様に行います
3. 肩回し運動
- 両肩を耳に近づけるように上げ、後ろ回しで大きく円を描くように回します
- 5回行ったら、前回しも5回行います
血流が改善され、筋肉の緊張がほぐれます。
医師が推奨する根本的な改善アプローチ
パソコンモニターなど作業環境の改善
パソコンを利用する場合、モニターの高さは目線がやや下向きになる位置に調整します。
キーボードは肘が90度になる高さに設置し、マウスは体に近い位置で使用しましょう。
これらの小さな調整が、肩への負担を大幅に軽減します。
定期的な休憩とストレッチの習慣化
50分作業したら10分休憩する「50-10ルール」を実践しましょう。
休憩時には立ち上がり、軽いストレッチや歩行を行うことで、筋肉の緊張をリセットできます。
適切な運動習慣の確立
週に2〜3回、肩周りの筋力トレーニングを行うことで、痛みの予防と改善が期待できます。
ダンベルを使った簡単な運動や、ヨガ、水泳などが特に効果的です。
医療機関を受診すべきタイミング
以下の症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください
- 痛みが2週間以上続いている
- 腕や手にしびれを感じる
- 夜間も痛みで眠れない
- 頭痛やめまいを伴う
- 痛みが徐々に悪化している
これらは、単なる筋肉疲労を超えた問題の可能性を示唆しています。
ペインクリニックでの専門的治療
当院では、肩の痛みに対して以下のような専門的治療を提供しています
ハイドロリリース(筋膜リリース注射)
超音波で体内を見ながら、筋膜の部分に生理食塩水を注入します。筋膜同士の滑走性を改善することで、痛みの原因となっている筋膜の癒着を解消します。
肩の痛みでは、特に僧帽筋と肩甲挙筋の間、または肩甲骨周囲の筋膜に対して施行することが多く、従来の治療で改善が見られなかった慢性的な肩の痛みにも効果が期待できます。
注射後は即座に肩の動きが軽くなることを実感される患者様も多く、安全性も高い治療法です。
トリガーポイント注射
痛みの原因となっている筋肉の硬結部分に、局所麻酔薬を注射することで、即効性のある痛みの緩和が期待できます。
神経ブロック療法
神経の炎症や圧迫による痛みに対して、神経周囲に薬剤を注入し、痛みの伝達を遮断します。
理学療法との併用治療
薬物療法と理学療法を組み合わせることで、痛みの軽減と機能回復を同時に図ります。
まとめ:痛みのない快適な仕事環境を手に入れるために
仕事中の肩の痛みは、決して「仕方のないもの」ではありません。
原因を正しく理解し、日々の小さな工夫を積み重ねることで、必ず改善への道は開けます。まずは今日から、正しい姿勢を意識し、定期的なストレッチを始めてみませんか?
そして、症状が改善しない場合は、遠慮なく診察時にご相談ください。