階段を降りる時の痛み、立ち上がる時の違和感、買い物後の膝の重だるさ—。
変形性膝関節症と診断された方は、日々こうした症状と向き合っているのではないでしょうか。
「この痛みとずっと付き合っていかなければならないのか」そんな不安を感じることもあるでしょう。
しかし、希望があります。
変形性膝関節症は、日常生活の過ごし方次第で、症状の進行速度を大きく変えることができる疾患なのです。
本記事では、明日からすぐに実践できる4つの生活習慣をご紹介します。特別な道具や費用は不要で、今日から始められるものばかりです。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨と骨が直接ぶつかることで痛みや変形が生じる疾患です。
日本国内では約2,500万人が罹患していると推定され、特に50歳以上の女性に多く見られます。
主な症状は、動き始めの痛み、階段昇降時の痛み、膝に水が溜まる、正座ができないなどです。初期段階では軽い違和感程度ですが、進行すると日常生活に大きな支障をきたすようになります。
原因は加齢、肥満、膝への過度な負担、O脚などの骨格的要因などが挙げられます。一度すり減った軟骨を完全に元に戻すことは困難ですが、適切な対処により症状の進行を遅らせ、痛みを軽減することは十分に可能です。
なぜ日常生活の工夫が重要なのか
専門医による治療や薬物療法は確かに重要です。しかし、診察室で過ごす時間は、あなたの人生のごく一部に過ぎません。残りの大半の時間—家で過ごす時間、仕事、買い物、家事—これらの日常生活こそが、膝の状態を大きく左右するのです。
日々の小さな負担の積み重ねが、変形性膝関節症の進行を加速させます。逆に言えば、日々の負担を減らすことで、進行を緩やかにできるのです。さらに、適切な体の使い方を身につけることで痛みが軽減され、より活動的に過ごせるようになります。結果として筋力の維持にもつながり、良い循環が生まれます。
それでは、具体的な4つの生活習慣を見ていきましょう。
習慣1:階段の上り下りは「良い方の足」から
階段の上り下りは、変形性膝関節症の患者さんにとって最も負担の大きい動作の一つです。しかし、足を出す順番を意識するだけで、痛い方の膝への負担を大幅に減らすことができます。
基本原則は、「上りは良い方から、下りは悪い方から」です。
階段を上る時は、まず痛みの少ない方の足を一段上に出し、その足の力で体を持ち上げます。次に、痛い方の足を同じ段に揃えます。この方法なら、痛い方の足は体重を持ち上げる必要がなく、単に上の段に移動するだけで済みます。
階段を下りる時は、まず痛い方の足を一段下に出します。この時、まだ大部分の体重は上の段にある良い方の足で支えています。そして、良い方の足で体重を支えながらゆっくりと体を下ろし、最後に良い方の足を同じ段に揃えます。
手すりは必ず使用しましょう。手すりにしっかりとつかまることで、腕の力を使って体重の一部を支えることができ、膝への負担がさらに軽減されます。急がず、一段ずつ確実に足を運ぶことが大切です。
習慣2:体重管理で膝への負担を減らす
体重と膝への負担には、直接的で強い関係があります。
歩行時、膝には体重の約3〜4倍の力がかかるとされています。つまり、体重を1キロ減らすだけで、膝への負担は3〜4キロ軽減されることになります。
「膝が痛くて運動できないから痩せられない」そう感じている方も多いでしょう。
しかし、体重管理の基本は「消費カロリーよりも摂取カロリーを少なくする」ことです。運動だけに頼らず、食事の見直しから始めることが現実的で効果的です。
具体的には、食事は腹八分目を心がけ、ゆっくりと時間をかけて食べることで満腹感を得やすくなります。野菜を先に食べることで、血糖値の急上昇を抑え、食べ過ぎを防ぐことができます。
糖質の摂り過ぎに注意し、主食の量を少し減らし、その分野菜やタンパク質を増やすバランスの良い食事を心がけましょう。
間食はできるだけ避けるか、果物やナッツなどの健康的な選択肢に変更します。清涼飲料水や果汁ジュースには想像以上に多くの糖分が含まれているため、普段の水分補給は水やお茶を選びましょう。
急激な減量は体に負担をかけ、リバウンドのリスクも高まります。月に1〜2キロ程度の緩やかなペースで、長期的な視点で取り組むことが成功の秘訣です。
習慣3:冷やすべき時、温めるべき時を見極める
膝が痛い時、冷やすべきか温めるべきか—これは多くの患者さんが迷うポイントです。実は、膝の状態によって適切な対処法は変わります。
基本原則は、「急性期には冷やし、慢性期には温める」です。
膝が腫れて熱を持ち、赤くなっているような炎症が強い急性期には、冷やすことが適切です。保冷剤をタオルで包んで患部に当てる、冷湿布を貼るなどの方法で、一度に15〜20分程度、1日に数回行います。
一方、急性の炎症が落ち着き、膝の熱感や腫れがなく、鈍い痛みや重だるさ、動きの硬さを感じる慢性期には、温めることが効果的です。お風呂にゆっくり浸かる、温湿布を貼るなどの方法で血行を促進し、筋肉の緊張をほぐします。
見極めのポイントは、膝が腫れている、触ると熱を持っている、赤くなっている時は冷やす。腫れや熱感はないが重だるい、朝起きた時や長時間座った後に膝が硬い時は温めるということです。
迷った時は、まず冷やしてみて症状が楽になるか確認するのも一つの方法です。判断に迷う時や症状が改善しない時は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。
専門的な治療との組み合わせ
日常生活の工夫に加えて、医療機関での専門的な治療を組み合わせることで、より効果的な症状管理が可能になります。
保存療法としては、鎮痛剤や湿布などの薬物療法、ヒアルロン酸注射、理学療法などがあります。これらは炎症を抑え、痛みを和らげ、膝の機能を改善する効果が期待できます。
近年では、PFC-FD療法などの再生医療も注目されています。
患者さん自身の血液から抽出した成長因子を膝関節に注入することで、組織の修復を促し、炎症を抑える治療法です。自分の血液を使用するため、アレルギー反応のリスクが低く、手術を避けたい方や従来の治療で十分な効果が得られなかった方の選択肢となっています。
重要なのは、日常生活の工夫と医学的治療は相互に補完し合う関係にあるということです。専門的な治療を受けていても、日常生活での膝への負担が大きければ、治療効果は限定的になります。両方のアプローチを組み合わせることで、最良の結果が得られるのです。
まとめ:今日から始める一歩
変形性膝関節症との付き合いは長い道のりかもしれません。
しかし、その道のりを少しでも快適に歩んでいくために、日常生活の工夫は大きな力となります。
階段の上り下りの順番を意識する、体重を管理する、冷やすべき時と温めるべき時を見極める—これらの習慣一つひとつは、目立たないかもしれません。しかし、それらが積み重なることで、膝への負担は確実に軽減され、症状の進行を遅らせることができるのです。
これらの習慣は、一度に完璧に実践する必要はありません。まずは取り入れやすいものから一つずつ始めてみましょう。継続することで、確実に膝の状態は変わっていきます。
変形性膝関節症があっても、あきらめる必要はありません。適切なケアと前向きな姿勢があれば、あなたは今後も活動的で充実した生活を送ることができるのです。
