膝が腫れて、階段の昇り降りが辛い。
正座ができなくなった。触ると膝がぶよぶよしている。
これらは「膝に水が溜まっている」典型的な症状です。
医学的には「関節水腫」と呼ばれるこの状態に、多くの方が不安を感じています。
特に「水を抜くと癖になる」という噂を耳にして、治療をためらっている方も少なくありません。
しかし、この「癖になる」という話は本当なのでしょうか?
そもそも、なぜ膝に水が溜まるのでしょうか?
本記事では、膝の水が溜まるメカニズムから適切な治療法、そして多くの患者様が気にされる「水を抜く治療」の真実まで、医師の視点から分かりやすく解説いたします。
膝の水とは:関節液の役割を理解する
「膝の水」とは、膝関節内に常に存在する「関節液」のことです。
この関節液は異常なものではなく、膝の健康に欠かせない重要な役割を果たしています。
潤滑油のように関節の動きを滑らかにし、軟骨に栄養を供給し、膝にかかる衝撃を吸収するクッションの役割も担っているのです。
通常、膝関節内には約2~3mlの関節液が存在しますが、何らかの原因で関節に炎症が起きると、この関節液が過剰に産生され、数十mlから時には100ml以上も溜まってしまうことがあります。
これが「膝に水が溜まった」状態、つまり関節水腫なのです。
なぜ膝に水が溜まるのか
膝に水が溜まるのは「結果」であり、その背後には必ず「原因」となる疾患や状態が存在します。
適切な治療のためには、この根本原因を特定することが極めて重要です。
主な原因疾患
変形性膝関節症 最も多い原因です。加齢や肥満、過度の負荷により軟骨が摩耗し、関節内で炎症が起こることで、関節液が過剰に産生されます。立ち上がる時の膝の痛みや階段昇降時の違和感、朝の膝のこわばりなどが特徴的です。
関節リウマチ 自己免疫疾患による慢性的な滑膜の炎症で、大量の関節液が産生されます。複数の関節に症状が現れることが多く、朝のこわばりが1時間以上続くのが特徴です。
半月板損傷・靭帯損傷 膝のクッションである半月板や靭帯が損傷すると、関節内に炎症が起こり水が溜まります。膝の引っかかり感や不安定感を伴うことが多いです。
その他の原因 痛風や偽痛風では結晶が関節内に沈着して激しい炎症を引き起こします。また、感染性関節炎では細菌感染により膿が溜まることもあり、発熱を伴う場合は緊急性が高いため早急な受診が必要です。
「水を抜くと癖になる」は本当か?
多くの患者様が最も気にされるのが、「水を抜くと癖になるのではないか」という不安です。
結論から申し上げると、これは誤解です。
「水を抜いてもまた溜まる」という経験をされた方は確かに多くいらっしゃいます。
しかし、これは水を抜く治療自体が原因ではなく、水が溜まる原因となっている疾患が治っていないためなのです。
例えば、変形性膝関節症で水が溜まっている場合、水を抜いても関節の炎症が続いていれば、また水は溜まります。
これは「癖になった」のではなく、「根本原因がまだ存在している」ということです。
水を抜く治療が必要な理由
むしろ、溜まった水を適切に抜くことには重要な意味があります。
- 症状の改善:過剰に溜まった関節液は関節包を圧迫し、痛みや重だるさの原因となりますが、これを除去することで症状が大幅に軽減されます。
- 関節可動域の回復:水を抜くことで膝の曲げ伸ばしがしやすくなり、日常生活の動作が楽になります。
- 診断への貢献:抜いた関節液を検査することで、原因疾患の特定に役立ちます。
- 治療効果の向上:水を抜いた後にヒアルロン酸やPFCFD療法などの薬剤を注入することで、より高い治療効果が期待できます。
膝の水の治療法
関節水腫の治療は、原因疾患の治療と並行して行われます。
過剰に溜まった関節液を注射器で吸引除去する関節穿刺は、局所麻酔を使用するため痛みはほとんどなく、5~10分程度で終了します。
主な治療選択肢
注射療法
- ヒアルロン酸注射:関節液の粘性を改善し、軟骨を保護します。週1回、計5回の治療が標準的です。
- ステロイド注射:強い炎症がある場合に使用しますが、頻回の使用は避ける必要があります。
- PFCFD療法:患者様自身の血液から抽出した血小板由来成分を関節内に注入する最新の再生医療です。自然治癒力を高めながら炎症を抑制し、組織の修復を促進します。根本的な改善を目指す治療として注目されています。
その他の治療法 内服薬としてNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で炎症と痛みを抑制し、外用薬として湿布やゲル剤を使用します。また、理学療法による膝周囲の筋力強化と柔軟性向上も、関節の安定性を高め、水が溜まりにくい状態を作るために重要です。
予防と日常生活での注意点
関節水腫の予防は、根本原因となる疾患の予防と管理が基本です。適正体重の維持はBMI25未満を目標とし、バランスの取れた食事と適度な運動を継続しましょう。
水を溜まりにくくするポイント
- 筋力強化:大腿四頭筋を中心とした筋力トレーニングで膝関節の安定性を高めます。
- 適度な運動:水中ウォーキング、平地でのウォーキング、エアロバイクなど、関節に優しい運動を週3回、30分程度継続します。
- 膝への負担軽減:長時間の立ち仕事や階段の昇降を避け、日常生活での過度な負担を減らします。
- 早期受診:膝の違和感や軽い腫れでも、早めに専門医に相談することで悪化を防げます。
当クリニックでの治療
私たちペインクリニックでは、関節水腫の患者様に対して、原因の特定から根本的な治療まで包括的なアプローチを提供しています。
丁寧な問診と身体診察、画像診断、関節液検査により原因を特定し、患者様の症状や生活スタイルに応じた最適な治療法を選択します。
従来の治療法に加え、PFCFD療法などの最新の再生医療も提供し、定期的なフォローアップにより再発予防と長期的な症状管理をサポートいたします。
まとめ
膝に水が溜まるのは、体が「何か問題がある」というサインを送っているということです。
「水を抜くと癖になる」という誤解から治療をためらうのではなく、適切な診断と治療を受けることが重要です。
水を抜く治療自体が問題を引き起こすのではなく、根本原因を放置することが問題なのです。
原因を特定し、適切な治療を行うことで、水が溜まりにくい健康な膝を取り戻すことができます。
膝の腫れや違和感を感じたら、ぜひ早めにご相談ください。私たちは、患者様一人ひとりに寄り添い、最適な治療プランをご提案いたします。